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2020.07.21

低気密・低断熱の家と、命の危険との関係。

低気密・低断熱の家と、命の危険との関係。

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低気密・低断熱の家に住むことのリスクは、交通事故死のリスクよりも高い!?

住宅内の急激な温度変化により身体が受ける影響のことをヒートショックといいます。例えば、暖かいリビングから寒い脱衣室、浴室、トイレなど温度差の大きいところに移動すると身体が温度変化にさらわれて血圧が急変します。特に冬期の入浴では、暖かい居間から寒い脱衣室や浴室へ移動し、さらに裸になるため、熱を奪われまいとして血管が縮み、血圧が上がります。そして、お湯につかると血管が広がって急に血圧が下がります。寒い環境での入浴は、血圧が何回も大きく変動することになります。血圧の変動は心臓に負担をかけるため、脳卒中や心筋梗塞などを引き起こすことにつながるのです。

ヒートショックに起因して入浴中に亡くなる方は、全国で年間約1万9000人※1と推測されています。2017年の交通事故死者数は4,000人を下回っていますから、交通事故よりもヒートショックによる死者数の方がはるかに多いのです。

さらに下右図は厚生労働省の月別の溺死者数のデータです。溺死というのは、夏に海水浴場等での発生よりも、圧倒的に、冬にヒートショックにより家庭のお風呂で発生しています。また、このデータの陰には死に至らなくても、脳卒中等で、大きな後遺症を抱え、健康寿命を縮めてしまっている方々がその何倍にも上っていると思われます。

ではなぜ、家の中に大きな温度差が生じるのでしょうか? これは、家の気密・断熱性能が低いことが最大の要因です。高気密・高断熱の家は、家の中に温度差が生じにくくなります。つまりヒートショックリスクが大幅に少なくなります。逆に言えば、低気密・低断熱の家に住むということは、とても高いリスクを負うということでもあるのです。

ヒートショックは寒い地域だけの話ではありません。

ヒートショックは、寒い地域で多く発生するもので、比較的温暖な地域ではあまり関係ないことと思っている人も多いようです。それは大きな誤解です。

東京都健康長寿医療センター研究所の調査※2によると、高齢者の入浴者の心肺停止状態発生率の都道府県別のランキングでは、最も発生率が高いのが香川県、2位が兵庫県、4位が東京都、一方、2番目に低いのが北海道、4番目に低いのが青森県です。つまり、比較的温暖な地域でヒートショックの発生率が高く、寒冷地でも高気密・高断熱住宅が普及している北海道や青森県では、あまり発生していないのです。ヒートショックは、決して寒い地域だけのリスクではありません。むしろ高気熱・高断密住宅が普及していない中途半端に温暖な地域こそ危ないのです。

すべての先進国では夏よりも冬に亡くなる人の比率が高いのですが、夏と冬の死亡率の差の大きさは、先進国の中で残念ながら日本はトップクラスになっています。これは住宅の断熱・気密性能不足によるヒートショックリスクの高さに起因していると思われます。

欧米では省エネだけではなく、居住者の健康という観点から断熱性能の基準が定められています。

欧米では、住宅内の低温が健康に悪いことは常識になっています。たとえば、イギリスの健康省は、寒さは脳梗塞、高血圧、肺の免疫力低下、胸の感染症、心筋梗塞、血液の高濃度化など健康に悪影響を及ぼすと白書※3にはっきりと示しています。

また日本では、省エネという観点からしか住宅の断熱性能の関する基準は定められていませんが、多くの先進国では、省エネという観点からだけではなく、居住者の健康という観点から住宅の断熱性能等について厳しい規制が導入されています。例えば米国のニューヨーク州では、賃貸住宅のオーナー向けの規定として、6時から22時の間は室温を20℃以上に保つように、そして22時から6時の間は13℃以上を保つようにと規定※4しています。

つまり夜寝る際に暖房を切っても、翌朝までに13℃以下に下がらないような断熱性能を求めているのです。このような室温規定が定められているのは、ニューヨーク州だけではありません。少なくともマサチューセッツ州やニュージャージー州など北東部の8州では、それぞれ最低室温規定が定められています。

また英国では、賃貸住宅の所有者に対して、省エネ等級が一定ランク以下の住宅や建築物の賃貸が禁止されています。英国の省エネ等級は、図のように7段階表示なのですが、このうち最低等級のGランクだけでなく、Fランクも賃貸が禁止されています。これらのランクの賃貸住宅オーナーは断熱改修工事を行って省エネ等級を引き上げない限り賃貸ができないのです。

夏を旨とする住まいの設計は危険です。

兼好法師は、「徒然草」の中で、「家の作りやうは、夏をむねとすべし」と記しています。

確かに昔は、夏に亡くなる方の比率が高く、夏が危険な季節だったようです。下図は、1910年と1970年の月別の死亡率です。残念ながら兼好法師の時代のデータはありませんが、1910年のデータを見ると、昔は夏の死亡率が高く、危険な季節であったことがわかります。これは、夏に食あたりや赤痢等の感染症が発生しやすかったことに起因しているようです。兼好法師の時代は夏を快適に安全に過ごせる家づくりが大切だったのでしょう。

その後、冷蔵庫の普及や医療の発達等により、年を追うごとに夏の死亡率が下がり、相対的に冬の死亡率が上がってきています。1970年には完全に逆転し、1月の死亡率が突出しています。現在は、すべての先進国で冬の死亡率の方が高くなっています。ただし、夏と冬の死亡率の差がこれほど大きいのは、先進国の中では日本以外では地中海沿岸の比較的温暖な数国に限られるそうで、北欧やドイツ、英国等の比較的寒い国々では、これほど夏と冬の差は開いていません。残念ながら、日本の夏と冬の死亡率差の大きさは先進国の中でトップクラスになっているのです。これは、上記の北海道や青森県でヒートショックの発生率が低く、比較的温暖な地域でヒートショックの発生率が高いことと理由は同じであると思われます。つまり、住宅の断熱性能の低さが、日本の冬の死亡率の高さにつながっていると考えられるのです。

冬の方がはるかに危険な季節になっているのにもかかわらず、実は今でも、かなり多くの住宅の設計者が「家の作りやうは、夏をむねとすべし」という言葉を胸に刻んで、住宅を設計しているようです。この点は、すまいづくりの際の住宅会社や設計者選びの際の重要なチェックポイントのひとつだと思います。

ただし、家の設計にあたって、夏を軽視していいということではありません。特に高気密・高断熱の住まいにおいては、夏の日射遮蔽が非常に重要です。夏の日射遮蔽については、別のコラムで触れますが、夏に日射を家の中に取り込まないように庇等を計画しないと、高気密・高断熱の家はオーバーヒートを起こして、とても暑い家になってしまいます。デザイン重視で、庇のない家が増えていますが、この点も注意が必要です。

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